一般的に忘れると言うことは、マイナスにとられがちです。忘れ物をしてしまって面倒になったとか、不注意、忘れで事故になってしまったとか、大事な人の名前を忘れて恥をかいただとか、鍵を車の中に入れたままドアをロックしてしまっただとか、勉強した内容を忘れてテストがよくできなかっただとか、様々なことがあります。
しかしながら、物事には良し悪しがありまして、忘れることによって助かることも少なくありません。不安症が起こった時に鎮静剤を使うことがあります。ある種の鎮静剤を使いますと、頭がボーっとしてきて記憶や集中がおっくうになります。そして、薬が体から無くなった頃に解ることは、薬を使っていた間に起こった出来事の記憶が余りありません。ストレスがあった結果の不安症ですから、この記憶喪失はストレスや心配を忘れるという意味で便利であると言うわけです。また、手術のために全身麻酔をする時に、このような鎮静剤を共用しますと、手術中の出来事を覚えていないので便利であることもあります。
もっと自然に起こる忘れはどうでしょう。どんな内容の情報でも、頭に入った瞬間から時間と共に少しずつ消滅していきます。そのために一般的に言う忘れが発生し、私達は困るわけなのですが、時には忘れたほうが良いこと、忘れたいことがあります。例えば、ある人間関係で問題が起こり、その解決が簡単にはできずにそのままになってしまったとしましょう。こういうのは心のストレスとなって精神や身体に影響を及ぼすわけですが、いつまでも悩んでいるより忘れたほうが自分の健康によい時もあります。私達の生活にはいろいろな問題が起こり、前に進むために解決法を探そうとしますが、時には今のところ、どうこうできない問題も沢山あります。後になって時間と共に解決したり、新しい見方で解決に至ったりすることもあります。それまでは、毎日問題を抱えながら悩むより、忘れていたほうがよいかもしれません。
忘れることが大切であることの一つに、ゆるすというのがあります。誰かがあなたに悪いことをしたとしましょう。あなたは怒り、失望し、仕返しをしたくなります。このような気持ちを抱えて毎日暮らすのはあなたにとって大変負担になります。そうは言うものの数日が過ぎ、数週間が過ぎ、ふと考えてみますと、怒りがそんなに感じられません。時間と共に怒りがじょじょにおさまってきたではないですか。最初に経験した強い感情はどこかに消えてしまっています。そこであなたに以前考えられなかった選択が生まれてきます。もうあまり感情的に悩んでいないので、誰かさんのした不公平なことは、忘れることができそうです。忘れることによって、あなたが抱えている心の負担はなくなりますし、それがあなたの健康によいことは確かです。
忘れることが、仕事の効率につながることがしばしばあります。現代は生活内容が複雑になり、私達は様々な仕事を同時にしなければならない時が増えました。一つの事柄をしているうちに、もう一つの事柄の計画を頭で練っていたり、同時に二つや三つの事柄をいったりきたりしながら進めていたりして忙しいです。でも、質の良い仕事をするためには、そのことに集中することが大切です。気を配ってしないとだめになってしまう事柄も少なくありません。そのような時に大切なことは、集中するべき物意外の事柄を一時的にも忘れることです。そうすることによって全力を肝心なことに注ぎ、良い結果をもたらすことができます。
また、無意識の作用で都合のよい、そしてある意味では必要な忘れをすることもあります。命にも関わるようなトラウマを経験した人は、そのトラウマの内容を全部又は所々忘れていることがあります。そのような時、トラウマの内容を思い出すということは、その人の精神的生存に大きな害を及ぼすことになるのです。時間を置き少しずつトラウマの内容を失い、そして感情的に落ち着いた頃、記憶が受け入れられる形で戻ってきます。それまでは、必要な記憶喪失なのです。
ときには、精神的に悩んでいる人が、自分のことをすべて忘れてしまう記憶喪失障害が起こります。そのような人がある日、知人や親戚の人に発見されます。本人も他の人の名前(実は本名)で呼ばれてびっくりです。他の町でまったく新しいアイデンティティーを持ち、毎日何気なく仕事をしています。自分の過去のことを思い出せないこと自体あまり不思議には思いません。きっと思い出したくない過去があるんでしょうね。
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