私達は身の回りのさまざまな事に関して、向上したいという思いがあります。例えば、マラソンのことでも考えますと、トレーニングによっていかに速く走れるようになるか、もしくは、いかにしてゴールに達するまでの時間を短縮できるのかと考えます。また、仕事である品を売ろうとしているならば、いかにして多くの品を売ることができるのだろうかと工夫をします。沢山売れたり、速く走れるようになったら、自分がマラソンや仕事で向上したと思います。
ところが、皆さんも気が付いているとは思いますが、様々な分野の向上において、単にうまくなるように頑張っただけでは、あまり良い結果はでてきません。スキーをはいてきれいに格好よくゲレンデを滑り降りるには、何回も練習することによって上達はしてくるものの、限界に至ってしまいます。その限界を突き破るには、どうしてももう一つの要素、すなわち、自己というものと対決をしなければならないでしょう。
いったいここで言う自己とは何のことなのでしょう。それは、私達が何かに携わっている時の自分の調整のことなのです。マラソンのトレーニングが進み、心臓も肺も筋肉も強くなってきたとします。しかし、その能力を最大に発揮するには、先ず、弱気や気が散ることを避けなければなりません。走ることに集中し自分の体力の分散を計画的に行わなければなりません。そのためにちょうど良いスピードや走るリズムを保たなければなりません。そして、競争ということについて、自分にとって適当な受け取り方を考え出さなければなりません。競争を相手に勝つこととして受け止めるのか、ただゴールに達すること、終わらせることとしてとればよいのか、または、自分の体の痛みに絶えることとして受け止めるのか、捉えかたによって能力の発揮度が違ってきます。これらの要素はみな内的環境、つまり心の中で起こっているものでして、これらをうまく操ることが自己の調整の向上というものにあたるのです。
自己の調整の内容として主に3つの分野を考えてみました。先ず一番肝心なものと思えるものは、物事、ここでは向上の対象となる事柄の捉え方、見かた、理解の仕方です。物事はただそこに存在するのではなくて、私達の理解によって存在の形が変わってきます。例えば、現在普及したコンピューターと言う機械を様々な見かたをすることによって、その使い方が変わってきます。この機械を通信メディアとして見るのか、情報提供なのか、テレビの進化なのか、お金儲けの道具なのか、脳の研究に使うシミュレーションモデルなのか、サイバーワールドと言う新しい次元の違う世界なのか、性的道具なのか、友達なのか、ゲーム機なのか、エトセトラ。その理解によって私達の行動は変わっていきます。ですから、何かにおいて向上をしたい時、その何かをいかに理解するかと言うことが大切になるわけです。
2番目の自己調整分野は、活動や向上対象と自分との感情的距離であります。感情的距離というのは、自分がどのくらい、入り込んでいるか、夢中になっているか、エネルギーを使っているかということです。あまり夢中になり過ぎても良くありませんし、無関心でもよくありません。ちょうど良い刺激のレベルを探さなければなりません。例えば、体操の宙返りを習おうとしましょう。興味や気力がなくては上達は遅くなってしまうでしょう。でも、あまり夢中になって一日中練習をしていても、疲れて限界に達してしまいます。ある程度したら体を休め、練習中の経験を振り返って見て、次の練習の課題を練った方がうまくいくかもしれません。
最後の分野は集中力です。これは誰でも体験するように、あることにおいて向上するにはそこにエネルギーを集中する必要があります。トレーニング中に気が散って、他の事を考えていたりしては、やはり向上は望めないでしょう。集中力は自然と誰にでもあるものではありません。これ自体トレーニングをして向上していくものです。いかにして関係のない考えの誘惑と戦い、エネルギーの分散を避けるかは、鍛えた結果できるようになるのです。
私達は、何かを上手にしたい時に、どちらかと言うと外的要素に気が行ってしまい、自己の向上を忘れがちです。外的技術と同様、自己の向上も忘れないでとりくみましょう。
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