妄想の分析

| コメント(0) | トラックバック(0)

ある女性が落ち込みと情緒不安定があると言うことでセラピーを始めました。話によると、彼女の通っているコンピューター教室で皆が彼女のことを悪く言っていると言うのです。特に、コンピューターの先生が彼女のことをいじわるしていて、教室に行くのが大変であるといいます。

続けて話を聞いていますと、彼女は夫の職場にいるある女性に対して大変嫉妬をしているのが解りました。彼女曰く、職場の女性は夫を好きで、彼女に対して冷たい扱いをしていると言うのです。

これらは真実味のある話で、ありうる話として私は聞いていました。ある日、ひょっとしたことから、彼女とコンピューターの先生は以前仲がよかったと言う様子をつかむことができました。彼女の夫の職場の女性に対する嫉妬の話もありましたので、ひょっとしたら、コンピューターの先生のいじわるは、他の学生との競争と言う意味を含めた嫉妬ではないかと私は考えたのでした。

「あなたは、コンピューターの先生が好きだけれどもそれを伝えられないんじゃないの。」すると彼女は興味深い表情を見せて、「どうしたらよいと思いますか。」と返答するのです。私もまったくは外れていないと思い、彼女の過去の話などを興味深く聞きました。

彼女には2歳下の妹がいました。その妹を父が大変可愛がっていたのです。父親は彼女に対しては興味を見せませんでした。無視された状態が多かった彼女は、妹がどこかに消え失せてしまったらよいと思っていたのです。

ここまで知るとだんだんパターンがでてきました。夫の職場の女性に対する嫉妬は、実は妹に向けられていた怒りと嫉妬だったのです。そして、彼女を無視した父に対する欲求が今は夫に向けられていたのです。

「あなたの旦那さんとの関係はどうですか。」「彼は忙しくて、最近はあまり一緒にすごさないです。」職場の女性に対する嫉妬は、実は夫についての心配ではないかと彼女に伝えてみました。それに付け加えて、父に対する過去の気持ちが現在夫を通して再現されているのではないかと、彼女に問ってみたのです。

後に、コンピューターの先生に結婚内での不満の解消を求めたものの、結果としてうまくいかず、その理由を教室内での他の女性達のせいであると考えたのも、妹に対する怒りの転移であることを伝えることができました。

妄想の分析は非常に難しいです。なぜなら、セラピストが妄想について疑問を投げかけたり、現実で持って直面をしようとすると、セラピスト自身が妄想の対象になってしまうからです。セラピストに疑いを持ちだし、結果としてセラピストも妄想の中の一員と化してしまうからです。

この女性はその点ちょっと違っていました。妄想についての話を、違った現実の観点からみることができたのです。自分を妄想の外に置くことができ、セラピストの考えを、ひょっとしたら、と言う観点から、自分を見つめるために使うことができました。ある時点で、自分の妄想を妄想と言えるようになったのです。それは自分を客観視できる証拠なのです。

もう一つ、この妄想の分析で大切な面がありました。先にも触れましたように、セラピストは妄想の中に入れられて、疑問の世界の一員になってしまいがちです。この女性も、私を「無視し得る父」と見たとしても不思議ではありません。でも、それは起こりませんでした。変わりに、私を逆の「よく見ていてくれる父」と見たのです。それは、彼女の過去では妹を見ていた父でした。そのような父のイメージを私に描き保つことができたのです。彼女に得られなかったものがある意味で得られました。そのために、妄想が必要でなくなったのかもしれません。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.sweetnet.com/mt/mt-tb.cgi/107

コメントする

最近のブログ記事