“Is Your Child Ready For Kindergarten?"

(ハーバード大学院人間発達学学士過程修了&幼児教育専門家/アラ・ナジェン の講義より)                   

  アメリカでは、州によって義務教育を始める年齢が違います。ちなみに、私の住むニュージャージー州では、義務教育は七歳からです。22号でもレポートしたように、キンダーガーテン(幼稚園)は、エレメンタリー・スクー ル(小学校)に入る前の一年間のことを指します。多くのキンダーは、小学校に附属して おり、この期間は小学校に上がる前の準備期間と考えられ、読み書きが導入されるのもこ の時期です。

 一般に、キンダーの学齢は5歳ですが、年齢にかかわらず、まだ自分の子はキンダーについていけないと思えば、親の自由意思で、一年遅らせることもできます。特に、早生ま れの場合は、無理をして年齢に合わせてキンダーに入れるよりは、一年遅らせた方が、後々子供の能力は伸びるという考え方が主流になってきています。

 先日、“Is Your Child Ready For Kindergarten?"という講義に参加してきました。今 回は、その内容をレポートします。この講義は、主に子供の成長と知的発達・社会的発達 に焦点を当てたものなので、アメリカだけでなく、どの国の、どんな子供にも当てはめて 考えることができると思います。

 

子供の社会性および精神発達

(☆は、親にとって扱いやすい時期。★は、扱いにくい時期)

 

☆【二才】

言葉が増える、体のバランスがうまく取れる、自分でやろうという意思が出 てくる。探索行動が盛んになる。

★【二才半】

自意識が生まれる。選択という観念はわかるが、自分で選ぶことができない 。自己所有欲が強く、友達にオモチャを貸してあげられない。

☆【3才】

友達に興味を持ち、一緒に遊べる。

★【3才半】

恐怖心などが育つ、活動的。自分も大人と同じようにできると思い込んでい る。自己中心。

☆【4才】

想像力が発達、エネルギッシュおしゃべり。わざと汚い言葉を言う。グルー プ行動が下手。   

★【4才半】

5才児のような行動を取ったかと思うと、3才児行動に戻ったりして予想し にくい。

☆【5才】

大人の期待に応えていい子であろうとする。学習欲旺盛。

★【5才半】

反抗期、自己中心、生意気。大変、扱いにくい。   ☆…扱いやすい年齢、 ★…扱いにくい年齢  (扱いやすい年齢と扱いにくい年齢は、大体半年おきに交互にやってくる。)

 上記は、実際の年齢ではなく、精神発達上の年齢です。つまり、ある子は、年齢は4才 だけれども実際の行動は3才児のようだったり、あるいは5才児のようだったりする場合 もあるでしょう。でもそれは頭の善し悪しには、まったく関係ありません。一本のトマト の木には、幾つものトマトがなりますが、決していっぺんに全てのトマトが赤く熟してし まうことはありません。早く熟する実もあれば、ゆっくり熟する実もありますよね。早く 熟したからと言って、特別おいしいということはないし遅かったからと言ってまずいトマ トということはないでしょう。子供によって成長の仕方が違うというだけのことです。

 子供の成長は、身体的、精神的社会性といった様々な観点から見て、総合的にとらえな ければなりません。早く読み書きができるようになったとしても、それはあくまでも一つ の技術に秀でたということにすぎません。つまり勉強がどんなによくできても、精神的に は幼く、他の子供とうまく遊ぶといった社会行動ができないのならその子はやはり成長し きっていないということです。

 上記の年齢表から考えると、幼稚園に適した年齢はグループ行動ができるようになり、 学習意欲も旺盛になる五才(行動年齢)ということになります。キンダーは、集団行動や 集団学習に重点が置かれます。一クラス、教師一人あたりの園児数も二十四人位が平均で す。とてもエネルギッシュで自分中心におしゃべりをしたい、そしてグループ活動の準備 がまだできていない四才児(行動年齢)にとっては、他の二十四人の園児と一緒に行動し たり、じっと静かに自分の順番を待って座っていたりすることは、子供の自然な成長状態 に反することなのです。子供にとっては、苦痛でしょうし、まず不可能です。

  幼稚園のク ラスを観察していると、集団行動がとれないために「悪い子」のレッテルを貼られている 子供がいます。これは子供のせいではないのです。このような子は、まだ準備ができてい ないだけで、もしもう一年遅く同じクラスに入ったなら、きっと素晴らしい生徒になるこ とでしょう。この準備というのは、親が教えて準備できるようなものではありません。種 が自然の恵みで芽を出し、若葉を芽吹かせるように、あくまでも、子供の内側からの成長 を待ってください。       

質疑応答          

(私の質問)日本では早期教育に走って、早くから 子供に勉強ばかりさせる親も多くいるが、このようなことは、長い目で見て子供の成長に どんな影響を及ぼすと思いますか?

早期教育をされた多くの子は早い時期に「燃え尽き」、学習意欲をなくしたり、精神 的に不安定になったり、自殺率の高いという研究結果があります。

C私立幼稚園は、毎日宿題が出るが、どう思いますか?

幼稚園の一日が終わった後の子供の宿題は、「遊び」だと思います。子供は「遊び」 から多くのものを学びますし、また「遊び」からしか学べないことも、たくさんあります 。

私の息子は5才です。4才の妹がいますが、もし息子を一年遅らせてキンダーにやる とすると妹と同じクラスになってしまいす。息子は繊細な子なので、とても傷つくと思う のですが?

もし、御両親が、それでも一年遅らせた方が、その子自身のためにいいと信じるなら 、息子さんにも、そのことをよく説明して、実行するべきです。とにかく、これは家族の 決断です。自分たちが良いと信じたなら、確信を持って進むしかないと思います。

どんなキンダーを推薦しますか?


アメリカ教育制度

義務教育年数は、州によって違うが、幼稚園1年(キンダ−ガ−テン)、小学校5年( エレメンタリ−スク−ル)、中学校3年(ミドルスク−ル)、そして高校(ハイスク−ル )4年で計13年とするところが多いが、小学校と中学校を一緒にして8年でエレメンタ リ−スク−ルとしている所も多くある。

その他、日本のような六三三制、そして六、六制などがある。日本人にとってわかりに くいのが、1年間というキンダ−ガ−テンだ。これは、小学校の準備期間のようなもので 、入学予定の小学校に付属していることが多い。(後に説明するプリ・スク−ルに付属し ている場合もあります。)

アメリカの公立学校は、地域によって非常に大きな差があるので、お子さんを現地校に 入学させることを考えているなら、まず学校のよしあしを調べてから、家選びをすること が大切だ。日本より貧富の差が歴然としているアメリカのこと、やはり高級住宅地の集ま る地区の学校は、施設も整い、親の活動も活発で、必然的にレベルが高い。私が以前、あ る仕事の関係で見学した高級住宅街にある公立小学校は、何台ものコンピュ−タ−が並ぶ コンピュ−タ−室、電子顕微鏡など最新式実験道具をそろえた実験室など、いたれりつく せりの学習環境だった。それに較べ、小学校3年そこそこでクラスから妊娠した子が3〜 4名出るという学校もあるのがアメリカの現状だ。

幼児教育は、日本の託児所にあたるのがデイケア・センタ−Daycare Center。保育所に あたるのがプリ・スク−ルPre School(3歳〜5歳)だが、地域によってプリナ−サリ−スク−ル(6ヵ月〜3歳)、ナ−サリ−スク−ル(3〜4歳)、プリキンダ−ガ−テン( 4歳)などと呼ばれ、受け入れ年齢もまちまちだったりするので混乱してしまう。

私立のデイケア・センタ−は、働く母親のために、乳幼児から、預かってくれる所も多 い。過去、SHの会員の方でも、育児ノイロ−ゼ寸前になり、息抜きに毎日、数時間利用 し、親子ともどもハッピ−になったケ−スも少なからずあるので、託児所は働く母親だけ のものと考えずに、積極的に利用してみてはどうだろう。週3日、半日だけ預けるというようなことも可能なので、まずは門をたたいてみることをお勧めする。母親がノイロ−ゼ 気味で、子どもにあたってしまうより、ずっといいのでは…。ナ− サリ−、プレナ−サリ−、プリスク−ルは、日本の保育所にあたると先程書いたが、内容 は、どちらかというと日本の幼稚園に近い。

日本語補習校は、全米各地にあり、土曜日か日曜日に3〜4時間、国語を中心に教えて いる所が多い。ちなみに、うちの息子の通っているニュ−ジャ−ジ−州のプリンストン日本語学校は、日曜日の12時から4時20分まで開かれており、生徒数は約200名、幼 稚園の年小組(3歳児)から高校3年生までの日本人子女の教育を行っている。幼稚園は 日本語および日本文化を遊びを通して触れさせることを目的とし、小学校以上の学習教科 は国語、算数が中心。英語がまだ上手くなく現地の幼稚園、学校でストレスのたまってい る子にとっては、かっこうのストレス解消の場となるだろう。また、普段英語中心の生活 をしているお子さんにとっては、日本語にふれる良い機会になるはずだ。所在地や連絡先 は各地域の所轄総領事館に問い合わせるとわかる。

日本語学校のある州 マサチュ−セッツ、コネチカット、ニュ−ヨ−ク、ペンシルベニア、バ−ジニア、ノ−ス カロライナ、、サウスカロライナ、コロンビア特別地区、ジョ−ジア、フロリダ、ミシガ ン、オハイオ、インディアナ、イリノイ、ケンタッキ−、テネシ−、アラバマ、ミネソタ 、ネブラスカ、ミズ−リ、カンザス、ルイジアナ、テキサス、アリゾナ、コロラド、ニュ −メキシコ、ワシントン、オレゴン、カリフォルニア、アラスカ、ハワイ


デイケア・ナーサリー・キンダーガーテンの選びかた

★by キャサリン・フォスティック(ナ−サリ−校長)

実際に学校訪問してみて、教師に話を聞くだけでなく、一時間位教室のすみに座って、 子どもたちや教師の様子を観察することをお勧めします。この間子どもたちと目を合わせ ることは避けてください。学校を判断する上での重要なチェックポイントは…

●どのような躾けを行っているか? (たとえば、子どもたちが喧嘩をしたり、叩いたりした時、教師はどんな対応をしている かで、教師のしつけの仕方や方針がわかる。)

●子どもたちは、のびのびしているか?

●教室は、極端に静か過ぎないか? (子どもたちが、静かにすることを強く要求されてないか?)

●教室が整頓されすぎていないか? (教室を汚すことを禁じられいないか?子どもは、いつでも汚すことなど気にせずに、自 由に遊べるべき。汚してしまったら、あとで片づければいいのだから。)

●子どもたちが、自由に外遊びできる空間があるか。

●先生の人数は適切か? (8〜9人の子どもに対し1人、もしくは15〜16人の子どもに対し、先生1人とアシ スタント1人が適当。)

●ひとつの宗教に偏っていないか? (教室内にさまざまな人種、文化の子どもたちがいる場合、宗教についても考慮がなされ ているか?)

 

デイケアの選びかた(ペアレント誌より要約)

ケアギバ−(保育担当者)  デイケアを選ぶにあたっては、近所の人からの口コミや、かかりつけの小児科医がよい 情報源になります。またChild Care Aware Information Line(1-800-424-2246) に電話す ると近くのデイケア・インフォメ−ション・エ−ジェントを教えてくれます。最終的に決 断を下す前に必ず、そのデイケアセンタ−を見学し、最低30分は教室の様子をうかがう こと(第一回目の見学の時には子どもを置いていき、落ちついて観察しましょう。また入 園の後も、何度かチェックしに行くことが肝心)。というのは、もし、そこのケアギバ− が優しげなフリをしているのであれば30分もあれば必ずボロが出るからです。しょっち ゅう「ノ−」「そんなことしてはダメ。」という否定的な言葉ばかり聞かれるようなら、 そのデイケアはあまり良くありません。ノ−と言う代わりに子どもの気を別の事にそらし たりするといった技術が好まれます。良いセンタ−では、ケアギバ−は子どもの目線で話 をします。

環境  部屋が乱雑でないこと。たとえばキッチンセットのエリア、ブロックのエリア、人形の エリアというように場所が決められていれば子どもも混乱せずに、仲良く遊べます。園に走り回れる庭があることが好ましい。

スタッフ  スタッフのシフトが多くても2〜3回であることが好ましい。また赤ちゃんの場合は、 毎日面倒を見る人が代わるのは良くない。一人の人が主なケアギバ−として担当している ことが好ましい。

費用  これは、もうピンからキリまで。ピンでも、超ピンがNYのマンハッタン内!年間60 00ドルから10,000なんてところまである。郊外であれば、一ヵ月200ドル以下 という所も結構ある。

 

私の幼稚園選び 

カリフォルニア N

 去年4月に3歳8ヵ月の息子を入れるため、幼稚園を見学してまわりました。まず日本 にいる時から話題になりつつあったモンテッソリ−幼稚園をのぞきに行きましたが、確か に、清潔なクラスに先生が2人で3歳〜6歳の子どもを担当していたのですが、異常に、 もの静かな雰囲気に、うちの子は、きっと耐えられないだろうとあきらめました。

 独自の知育おもちゃなどは、すばらしいと思ったし、金魚など何種類かペットも飼って いたようでしたが、先生同士の会話が何か礼儀正しすぎて、きゅうくつそうだし、入園の ために親の面接もあると聞き、英語もまだろくにしゃべれない私は、入園しても何かと親 が呼び出されるのではないかと恐怖心をいだき、結局、もう少し近くのデイ・ケア・セン タ−に週4日とりあえず8:30〜12:30まで、あずけることにしたのです。

 決め手は、なんといっても園庭の広さでした。いろいろな遊具もあるし、一日2回、外 でのびのびと遊ばせてもらえるようで、男の子には、これが一番!と思ったのと、部屋も 清潔そうだしランチと2回スナックがついているし、それにゆくゆくは下の子も預けて私 も習い事をしたりして自分のための時間を持ちたいと考えたからです。日本のように、実家にちょっと預けて…というわけにはいきませんものね。3歳児クラスの先生がよさそう な人だというのも大きなポイントでした。アメリカ人には珍しく!?控えめで落ちついた おばさんで、どっしり構えているところが、何か安心感があり、主人も「日本人のおばさんみたいな珍しいタイプの人や。」と気に入ったようでした。やはり幼稚園選びは、一番にその子にあっているかということと、先生の人柄によると 思います。

 

良い小学校を選択する目安

ニュ−ジャ−ジ−州・レジ−ナ

 学校訪問をしましょう。学校を訪れた時の第一印象は、とても大切です。子どもたちの 様子を観察しましょう。みんな楽しそうにしていますか。それともストレスがあるように 見えますか。そのような環境に貴方のお子さんの性格が合っているように思いますか。机 の並べ方は、どうなっていますか(学校の教育方針でユニ−クな並べ方をしている所もあ る。)などをチェックしてみましょう。スタ−ウォ−ズの中でオビワン・ケノ−ビ−がル −ク・スカイウォ−カ−に言った言葉を覚えていますか。 “ Trust your feeling, luke!"(自分のフィ−リングを信じなさい。ル−ク。)でした。

してなかったのだ。私はいつも読みが浅い。慣 れるまでは苦労した。でもアメリカ生活は、とても素晴らしいものだった。得難い体験だったと思っている。住んだ所は、ディズニ−ワ−ルドで有名なオ−ランドから車で1時間 の距離にあるタイタスビルという田舎町。日本人一家は、我が家一軒だけだった。夫と私 と息子の親子3人で渡米。息子は当時1歳1ヵ月だった。


現地校に通いながら補習校に通う場合の子どものストレス

サウスキャロライナ・S

プラスのストレスもある

 12号のインディアナみちこさんのご質問に、私の海外8か国子育て歴10年、補習授 校教師4年と日本語教師経験、さらに健康教育学専攻の大学院生という立場から、お役にたちそうなことを書いてみたいと思います。

 みちこさん、まだ現地校にも慣れない小さなお子さんをさらに補習校にまで通わせるこ とを心配していらっしゃいます。ストレスが大きすぎるのではないか、というお気持ちをよくわかります。でも、私が思いますに、問題は、日曜日から土曜日まで、しかも二つの全く異なる学校生活を送れる段階に達しているかどうかということがポイントだと思いま す。基本的なことができていれば、特に身体が弱いとか適応面で大きな困難がない限り、 現地校と補習校は一年生のときから、普通にこなしていけると思います。また、ストレス というものは、よくないとばかり取られますが、適度のものならば、反対にプラスともな るものです。ストレスは、大人にとっても子どもにとっても現代生活を送るかぎり避けら れないもので、新しい環境に入れば誰でも感じるのが普通です。

支えとなる家庭環境

 こんなふうにストレスというものを捉えなおしてみると、親の役目はまず、子どもがそ れを乗り越えられるように家庭環境を整えてやることだと思えるのです。(どんなストレ スも乗り越えるべきだと言っているのではありません。そこは親の判断で)私の勤めてい る補習校でも、渡米直後から現地校と補習校の二本柱をこなしている一年生を何人も見ま す。

 さて、この家庭環境を整えるということですが、それは例えば、問題集を買い与えたり お勉強の時間を決めるといったことではありません。まず、基本的なよい生活習慣をつけ てやること、また、アメリカの社会にも日本の社会にもどちらにも偏ることなく、それぞ れの良い点を認める態度を持つように導いてやること、そして、言葉の勉強は楽しいと自 然に子どもが思えるような雰囲気と、豊かな日本語に常に触れることのできる家庭を作り だすこと、の大体三つに整理できると思います。特にこの三つ目の日本語環境作りは、( 後でも述べますが)特に年齢の低い子どもたちの日本語環境に大きな影響を及ぼす重要な ものです。家庭での日常会話や読み聞かせ、大人同士の会話や子ども自身の読書などで豊 かな日本語に触れさせるよう努力することです。

日本の“子ども文化”を学ぶ場としての補習校

 それでは、補習校は、不必要なのでしょうか。海外子女子教育振興財団などの出してい る通信学習を利用して、家庭で日本の学校の勉強をさせることも可能ですが、もし、通学 可能な距離に補習校があり、いずれ日本に帰ってお子さんを日本の学校で教育するつもりであり、さらに補習校に行かせたくない、あるいは不必要といった確固たる理由がないの なら一年生の最初から通わせたほうがいいと思います。

 補習校は、特に低学年の子どもたちにとっては、日本語の読み書きを習うだけの所ではなく、いわば、日本文化の窓口のような重要な働きがあると私は思っています。日本文化と言っても、例えば正月の祝い方、 節分の豆まきの意味といった伝統行事や生活習慣のみを言っているのではありません。要するに、家族の枠外で日本人と交流を持つことから学ぶ日本の社会のル−ルのようなものです。その中でも、同世代の日本人の子どもたちと遊ぶことで自然と学ぶ、“子どもの文 化”(とここでは呼んでおきます)のような共通体験は、日本で大人になっていく上での あるいは、単に日本語の運用能力をつけていく上での、目に見えない土台のようなものだ と考えています。日本語の読み書きだけなら家庭でも十分に教えることができますが、読み書きができるということと、日本人の子どもたちと日本語を使って楽しく遊べるという ことは大きく異なるわけです。

 

心のオアシスにもなる

 補習校には、また別の働きもあります。英語を習得中の渡米直後の子どもたちにとって は、年齢が高ければ高いほど、得意な日本語で自己表現のできる家庭以外の唯一の場として精神のバランスを取り戻す機会を与えてくれる、いわばオアシスのような所でもあります。土曜日の補習校で思う存分友達としゃべり、授業中に大きな声で発言し、やがて元気 を取戻し、また月曜日から金曜日までの現地校に勇気を出して帰って行くという姿を、何度も見ています。

 

家庭での補佐は必要

 さて、それでは補習校に通わせたとして、帰国後日本の勉強にどれだけ役立つのでしょ うか。私は、特に低学年のうちなら、補習校と家庭とが、がっちり協力しあい、学習を進 めていくなら大きな問題はまずないと思っています。補習校の宿題はすぐに答え合わせをして間違いを直すことから、豊かな日本語を与えることまで、家庭ですべきことはたくさ んあります。補習校は学校と名が付いていても、せいぜい土曜日一日か半日のことですか ら、日本の学校の感覚で、「学校で全てやってくれる」と思ってしまうのは、よくありません。日曜から金曜までは家庭で預かっているのだとぐらいに思っていたほうが、むしろ いと思います。

 国内にいれば日本語は浴びるように見たり聞いたりしますが、海外ではまずそれはかな いません。そこで、家庭でそれに代わる日本語環境を効果的に作りだすよう工夫をして頂 きたいんです。たとえば、国語の教科書は音読や朗読にも力を入れるとか、入手可能なら 日本のいろいろなテレビ番組を楽しんだり、読書を奨励したり、楽しく漢字や語句の学習 をさせるなど。補習校と家庭の協力で、力はかなりつくものです。

 

継続が大切

 こんなふうに書いてきますと、まるで現地校の勉強がそっちのけになるように聞こえて きますが、どちらかに重点を置く必要に迫られる時があります。現地校に重点を置くこと ももちろん良いことです。でも、そんな時、補習校の勉強を完全に中断してしまうことだ けはしないほうがいいと思います。基礎だけおさえるつもりでもいいですから、継続させ ることが大切です。日本語の勉強も現地校の勉強も楽しい、と思えるようになるのが、理想ということでしょうか。みちこさん、あまり心配なさらずに、まず通わせてごらんにな ってはいかがでしょう。

 


地獄のような3年を経て

ニュ−ジャ−ジ−州・みちこ

 親の海外赴任で、突然、海外生活を余儀なくされる子どもたち。特に子どもの年齢が高 い場合には、生活にうまく適応できるだろうか?子どもが差別に突き当たった時に、親は どう対処したらいいのか?ドラッグ(麻薬)などに走らせないためには、どういう教育を したらいいのか?といろいろな問題に突き当たると思います。8年間アメリカ駐在生活を 送り、二人のティ−ンエ−ジャ−を育てられた先輩ママの意見をうかがいました。(現在 、米国大学に入学した長男を残し、御主人と次男とともに日本に帰国)

 

苦悩の3年間

Q.アメリカに来たのは、いつですか?

A.1986年で、長男が12歳、次男が10歳の時でした。

Q.二人の息子さんは、どのようにアメリカ生活に適応していきましたか?

A.二人とも来た当時、英語はゼロでした。次男は、小学生ということもあり、クラスメ −トがまだ無邪気で、異国からの珍しい新入生に、先を争って英語を教えようとしたりしました。先生も、クラスの中から息子の面倒を見る係を指名し、それが、子どもたちの間 では、まる名誉職のように扱われたりして、そんな和気あいあいの雰囲気の中で、あっと言う間に溶け込んでいきました。ところが、長男は、英語ができないことや、東洋人ということで、随分友達からからかわれたようで、とても苦しみました。

 学校生活にしても、例えばハイスク−ルの場合、授業の間の休み時間毎にクラスの移動 があります。そんな中で息子は英語がよくわからず、どこの教室に行っていいのかわからないことも、しばしばあったようです。ある時、学校から息子が教師に対して反抗的な態 度を取っているということで、私たち親が呼び出されました。渡米以来、すっかり無口に なり、親には何もしゃべらなくなってしまった息子です。なかな本心を語ろうとしませんでしたが、何とか聞き出すと、先生が息子に話題を提供するためなのか「日本にスプ−ン やフォ−クはあるのか?」「電車は走っているのか?」という質問をするのだそうです。 それで、日本では優等生タイプだった息子は、自分も馬鹿にされたように思い、自尊心を傷つけられ、反抗的な態度を示すようになってしまったようです。

 主人が、その先生に差別的発言はやめるように抗議に行くと、今度は先生が泣きだした りして、大変でした。先生は、特に差別するつもりで言ったわけでなく、無知から発した 言葉たったのでしょうけどね。

 とにかく渡米してから3年間、長男は、すっかり無口になってしまい、私に当たり散ら すこともよくありました。長男が学校生活を楽しく送れるようになったのは、3年ぐらい して英語も上達し、学校の中でもお客さん扱いされなくなってきてからのことだったと思 います。また、その頃、学校では、悪い子、乱暴な子という烙印を押され、みんなに恐れ られていた子が、なぜか息子のことを気に入ってくれて、からかったり、差別的なことを言う子などから随分かばってくれたことが彼を力づけたようです。

子どもにプレッシャ−をかけ過ぎない

Q.子どもを中学校から、アメリカの学校に入れる場合の注意は?

A.小学7年生位から、クラスが成績順のトラック1、2、3と3段階に分けられます。 日本人の子は、数学が良くできるので、大抵トラック1の優等生のクラスに入れられてしまい、他の科目に全然ついてんいけなくて苦労したり、結局落ちこぼれてしまったりする 場合が多いようです。かと言って、トラック3のクラスに入っても今度は、勉強をあまり やる気のない子たちと一緒になるので、本人にも影響してしまう恐れがありますよね。それに可能性から言えば、悪い友達ができて悪いところへ行くことを覚えてしまうというこ とも否めません。その辺を、親がよく見極めて、適切な進路指導を行うことが肝心だと思 います。また、親が焦って、子どもに、「追いついたか。大丈夫か。」と聞くと、子ども は、家に帰ってからもプレッシャ−を感じてしまいますから、なるべく辛抱して見守って ほしいです。

Q.ドラッグ(麻薬)に関しては、どう対処しましたか。

A.学校では、ドラッグ教育も性教育もしてくれました。それよりも何よりも、実際に学校内で6年生の子がコカインを吸ってフラフラになっているのを見てコワイと思ったよ うで、中学、高校を通して、ドラッグ反対運動に参加したりもしてました。私たち親から 特別に指導したりしたことはなかったです。ただ、8年間、毎週土曜日に、息子たちを日 本語補習校に一時間半かけて連れて行っていたのですが、その車の中で、ドラッグなどの問題に限らず様々な悩みを息子たちと話し合えたことが、息子たちとコミュニケ−ションをはかる上でも、私の基本的姿勢をわかってもらう上でも、非常に役立ったと思います。

子育ては長い目で

Q.お子さんたちにとって、アメリカに来たことは良かったことだと思いますか?

A.長男の言葉を借りて言うと、「アメリカに来て失ったものは、日本での8年間。得たのは、アメリカでの8年間。」ということです。 私の考えでは、下の子には、特に良かったと思います。彼は、何でもマイウェイでやる子でしたから、きっと日本の学校に行っていたら、落ちこぼれになっていたと思います。  上の子は、今、アメリカの大学の一年生ですが、自分の当時を振り返ってみて最初の3 年間は、地獄だったと言っていましたね。でも、今では、すっかりこちらの生活になじんで、同年令の日本人の子に較べると自分の意見をしっかり持った、大人に成長しました。 最終的には、適応に悩んだ長男の方が、アメリカに残ることを決め、次男は日本に戻ることに決めたのですから、子どもは本当に長い目で見てやらないとわからないもんですね。

自分自身のために

Q.三枝子さんご自身がアメリカでの子育てで日本と違うと思った点は?

A.まず人の目を気にしなくて良いことですね。「〜に笑われる。」とか「恥ずかしいで しょ。」という育て方ではなく、「自分自身に最終目標があれば、他人の目を気にしなく ていい。」という子育てができました。

Q.先輩ママとしてアドバイスは?

A.やはり、自然体で溶け込むことだと思います。私の場合、英語ができなくても、スポ−ツや楽器とか言葉と関係ないことを通じて、アメリカ人と溶け込むように積極的に努力 しました。子どもの場合も同じで、言葉ができない場合は、まず言葉の関係のないスポ− ツなどをやらせるといいと思います。でも、これは失敗談になりますが、私たちは長男のストレスをなんとか解消させてやろうと、地元のリトルリ−グに入れたのですが、いきな りピッチャ−に指名され、球のコントロ−ルができず、仲間の非難をかい、かえって二重 のプッシャ−を与える結果になってしまいました。

NYマラソンに参加。母の生き方を示す

Q.アメリカでの一番の思い出は?

A.ニュ−ヨ−クマラソンに参加して完走したことです。もともと走ることが好きで、自分の 限界を試してみたいという気持ちもありましたが、子どもたちに私の生き方を示したかっ たということも大きな理由でした。人に較べてでなく、自分自身の達成感のために、何かをやり遂げることが、いかに大切かということを実践してみせることができたと思ってい ます。

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