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Dr.田崎
寛:慶応大医学部卒。同大学病院の泌尿器科教授として活躍したあと、1995年渡米。現在ウエストチェスター・メディカルセンターで、日本人に限らず多くの患者さんを診る。
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NJ生活誌「おしゃべりたんぽぽ」より許可を得て転載しております。「おしゃべりたんぽぽ」はNJ北部に住む日本人女性達がボランティア・スタッフやライターとして女性の視点を生かして作り上げているNJ 州情報満載の生活誌です。「来たばかクラブ」というNJ新米の女性のためのお茶会や、こどものための「おはなし会」など、特にこれからNJ近辺に赴任される方には心強いオープンな活動をしています。
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日本でも米国でも医療の場で病人に接する看護婦さんは「白衣の天使」と呼ばれ清く美しく働く姿の象徴とされてきました。ドクターも同じく「白衣」を着ているだけで患者さんからの尊敬や信頼を得、清潔感を与えるのに役立っていると思います。ところが最近、米国のナースはほぼ100%白衣を着ていません。ドクターも90%は普段着のままで診療しています。なぜ米国のドクターとナースは白衣を脱ぐことになったのでしょうか?
米国のナースの「脱白衣」は小児科から始まったと言われています。幼い子供たちは病院や診療所で痛いことをするドクターやナースを、病気を治してくれる人とはとらず自分をいじめる「白衣の悪魔」と思うのです。そのイメージを変えるには、パパやママと同じ普通の服装をしている方が安心感を与え、結果的に診断や治療がスムースに行くと判断されたからです。好みのスクラブ・ウエアーのナースが子供たちに好かれるようになって、小児科のドクターも白衣を着なくなりました。この小児心理学の臨床の場での応用は、大人の精神科でも適用されるようになり、米国で20年前にはほとんど全科で「脱白衣」の状態になりました。
日本では小児科などでピンクの仕事着を着ているナースも見かけますが基本的に「白衣姿」のドクターとナースは医療の場のユニフォームです。病人の立場から見れば「白衣」は尊敬や信頼の目印でもあり、また上下関係つまり対等ではない人間関係を象徴しているとも言えます。特に日本の大学病院や大病院での医者・患者関係は「白い巨塔」、下から上を見上げるとそびえ立って見えるのです。
米国では医者と同様に弁護士は社会の高い位置にいるとされていますが、「白衣」にあたるものを着用していたことはなく、クライエントとはオフイスで同じ服装=対等の立場で会います。医者・患者関係も全く人間として対等というのが米国人の考えです。ですからセカンド・オピニオンを取りに行きたいと患者さんが言えば医者は自分の診断に加えて検査所見など全ての情報を患者さんに渡して、どうぞ意見を聞きに行ってくださいということになります。
日本では基本的にセカンド・オピニオンを求めるという考えがないので、帰国した人が米国の感覚でそれを言うと、まずドクターは「俺を信用しないのか」と考えるのが普通です。渋々承知したとしても紹介の手紙は書きたがらないしX線写真・CTスキャン・MRIなどを全部渡すことはまずありません。
したがって患者さんは、最初のドクターには黙って他のドクターに行くことになりますから、既に行った検査、高価な画像診断なども初めからやり直すことになります。これは医療費の無駄使いであるばかりか患者さんにとっては不要なX線などの被爆を受けることになります。日本の医療施設で入院となると、他の診療所で行った検査ももう一度全部やり直すのが普通です。そのため手術が必要な場合でも最低1週間くらい前に入院しなければなりません。
米国ではほとんどの手術が当日入院のみです。お腹の手術の場合など、朝家を出る前に自分で浣腸、排便してから病院に来るように言われます。夜中から何も食べたり飲んだりしないようにとか、出血しやすくなるアスピリンまたはそれを含んだ感冒薬などは1週間前から飲まないようになどの注意事項も言い渡され、患者さんもしっかり守ります。
日本の場合は1週間も前に入院しているので看護婦さんが患者さんの一挙一動を実際に見て確認しています。このことは逆に言えば患者さんと医療関係者の間の信頼関係があるかないかで、日本の場合一般的に医療関係者は患者さんを信用していないということなのです。患者さん側も手術の前夜12時から絶対飲んだり食べたりしてはいけないと言われても、ちょっとくらいいいだろうと思ったりするのが日本の風土です。Yes/Noがはっきりしている西欧の生活習慣は日本では必ずしも当てはまらないのです。米国人の患者さんは1日でも早く退院したいというのが普通ですが、病名によって保険が3日以上の入院費を支払わないなど厳しい制約があることとかみ合います。
日本の場合完全に良くなるまで入院していたいという人の方が多く、家庭でも半病人が帰されても居る場所がないという住宅事情もあり、同じ病気でも日本の入院期間は米国の何倍も長くなっています。日本の病院では入院ベッド1つ当たりの稼働率が病院経営の鍵とされますが、米国では逆に出来るだけ早く退院させる回転率だけが問題になります。
保険制度の違いがここにも表われています。他院の検査結果を信用せず既に行っている高額の検査、たとえばMRIでも入院したらもう一度やるという日本のやり方も、病院経営の方針によるところが多いのです。米国ではCT、MRIなどを持ってセカンド・オピニオンを取る際には患者さんご本人が求めればCDROMにコピーしてもらえます。フィルムよりそれを持って行く方が更に正確な診断を早く得ることができます。
はじめに述べたように、日本ではまだナースもドクターも「白衣」。同じ施設ではユニフォームとして着用が義務付けられています。特にナースの帽子は施設で決められていますが、米国では自分が卒業した学校の帽子を着けていました。かなり以前、東京のある大学病院で教授とも見える「白衣」の先生が実は全くの偽医者で、婦人科の内診までしていた事件がありました。「白い巨塔」の盲点でした。お気を付けください。
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