Dr.田崎 寛:慶応大医学部卒。同大学病院の泌尿器科教授として活躍したあと、1995年渡米。現在ウエストチェスター・メディカルセンターで、日本人に限らず多くの患者さんを診る。
___________________________________________________________________________
NJ生活誌「おしゃべりたんぽぽ」より許可を得て転載しております。「おしゃべりたんぽぽ」はNJ北部に住む日本人女性達がボランティア・スタッフやライターとして女性の視点を生かして作り上げているNJ 州情報満載の生活誌です。「来たばかクラブ」というNJ新米の女性のためのお茶会や、こどものための「おはなし会」など、特にこれからNJ近辺に赴任される方には心強いオープンな活動をしています。
http://www.tampopo.info/xoops/
__________________________________________________________________________
たまに日本に行って驚くことの一つは、時間の正確さです。ラッシュ時の東京の山の手線では混むこともすさまじい一方で、3分間隔で電車が来るなんて、ニューヨークの地下鉄やメトロでは考えられません。もっと驚くのは何かの会合で、時間が夕方6時とかで通報されていると、ぴったり6時には開会になります。5分間くらいの遅れはあっても、10分以上開会が遅れることはまずありません。集まって来る人たちもそれを心得ているので、遅れて会場に入って行くと、皆に白い目で見られている感じがします。
日本では交通機関、とくに電車が発達している上に、正確に運行されているので、学校、会社、会合などほとんどすべてのことが定刻どおりに始まり、定刻どおりに終わる習慣が人々の身についているのだと思います。
米国では ”Just a minute”と言われたら「1分待って」と考えるのは大間違い、5分が普通です。”Wait 5 minutes” と言われたら、まず20分は待っても仕方がない、”Please have yourseat”と言われたら、30分や1時間は待つのを覚悟しなければなりません。
この時間感覚の違いは、交通手段が車でも地下鉄でもバスでも、いつどこで遅れても当然と誰しも思っている以上に、街路でも駅でも歩いている間に友達にすれ違っていったん立ち話を始めたら最後、仕事場の話から昔の仲間、家族全員の話まで、10分以上止まらないおしゃべり好きな国民性も大きな要素だと思います。
日本の大病院での待ち時間日本で大学病院に行ったら「3時間待って3分診察」は常識と考えられています。国公立の大病院でも待ち時間は長くて、先生に会う時間はほんの数分という短時間です。
理由として、風邪でも腹具合が一寸悪くても、日本全体が大病院指向になって行ったのが70年代、80年代で、その結果が「3時間待って3分診療」になったのですが、それが悪評のため90年代には大学病院や癌センターのような病院を国が特定機能病院と指定して、開業医などかかりつけの医師の紹介状がないと受け付けないようにして、大病院集中を回避しようとしました。
ところが、これでは「3時間待ち3分診療」はほとんど改善を示しませんでした。最初は大病院で診断がついたら、紹介もとに戻すのがねらいでした。ところがほとんどの患者さんは大病院で診断され治療まで受け、そのまま再来患者として経過観察に通院するようになります。
大病院の医師側にとっても、経過観察は自分のところでやりたいという希望があると同時に、病院経営側にとっては、一旦健康保険で支払い基金との関係が出来れば、金の成る木をよそに渡すことはないという現実的な発想があります。
したがって通院患者がどんどん増える結果、混雑する大病院の外来を交通整理するには先着順の番号札にするしかありません。
紹介状+アポイントなしには行けないアメリカの大病院
米国のとくに大学病院のメデイカル・センターには、医師の紹介状なしには行けません。その上、自分でアポイントメントを取らなければなりません。アポイントメントは何ヶ月も先ということもありますが、紹介医の判断で緊急性があれば早くなります。一旦決まれば「3時間待って3分診療」はあり得ません。つまり充分な診療時間が確保されています。
ではなぜ、日本ではそれが出来ないのでしょうか?一部の専門外来ではアポイント制を取っているところはありますが、その多くは再来の場合で、初診から医師と時間の約束をすることは出来ないのが普通です。大学病院や国公立病院は、すべての人に公平に開かれているべきですが、米国やヨーロッパの病院の様に、患者と医師が個人同志として約束する習慣がないのです。それも元はと言えば、国家管理の健康保険制度が定着している日本と、基本的に個人主義の欧米先進国の違いに帰着するように思います。
米国の大学病院の教授・助教授クラスの医師は、それぞれの専門医として大学内または近くのビルに診療のためのオフイスを持ち、ナースと事務員を雇って患者さんを診ています。それは大学内で開業していることと同じことです。日本の保険制度では、金持ちも生活保護家庭の患者も公平に診るのが原則ですから、初診から時間を約束して診察することは許されないのです。したがって番号札順、遅くなれば3時間待ちくらいは当然なのです。
米国の病院のERでは・・・
ところが米国の医療では金持ちと貧乏人では格差が大きくなるばかり、日本の生活保護に当たるメデイケイドにも入れない違法入国の貧乏人が癌にでもなったら、死ぬのを待つだけです。それでも見かねた家族がER(救急外来)に連れて行きます。ERではナースがTriadという重傷度の3段階に分けます。Gun shotの様なまさに死にかけている患者さんを最優先に、痛くて転げまわっている患者は第2優先、癌患者でもナースが見て緊急性がないと判断されれば、3時間どころか12時間も待たされることもあります。やっと順番が来ても、実際に診てくれるのは学生か若い研修医、治療も彼等に任されられれば良い方で、ナースが処置して帰されるのが普通です。勿論、責任者のドクターは居るはずですが、実際に手を下すことはまずありません。
どっちが実質長い待ち時間?
日本の大病院の外来診療の待ち時間は長く、診療時間は短いのは当分変わりそうにありません。米国では予約日が来るまで待つのは長くても時間をかけて診てもらえるのは良い点です。ただ入院治療が必要となると日本の順番待ちは何ヶ月もかかることが多く、一方米国では保険会社が払うと分ればすぐ入院、払わないとなれば永遠に近く待ち続ける国です。そこで「病院を待つところなりと見つけたり」 もう一句 「待ち時間 短くするのも医者次第」(ひろし)
コメントする