こどもが第二言語を習得する(バイリンガルになる)ことの意味について考えさせられるSweetHeart一押しの一冊
筆者は、ニューヨークにある「こどものくに幼稚園」の創立者そして園長として30年以上、異文化で育つ子どもたちを毎日見つめてきた方です。本著は、その貴重な経験から、
●異文化で育つということが幼い子どもの心の成長にとって、どのような影響があるのか
●英語に早く触れることが、本当に英語の習得を速めるのか
●子どものことばと心のかかわり
などに関して子ども発達研究の専門家である御茶ノ水大学教授内田伸子氏を監修に迎えて、まとめあげた、非常に説得力のある著書であり、海外での子育てのみならず、日本での子どもの英語教育に対して重要な示唆を与えています。
異文化のストレス
「せっかくアメリカに来たのだからアメリカの学校に・・・子どもは、すぐにことばを覚えてしまうから大丈夫」または「子どもは絶対にバイリンガルにしたい」という親の思いから、突然コミュニケーションができない環境に放り込まれ、不適応を起こしてしまう多くの子どもたち。
コミュニケーションの取れないストレスを暴力という形で表してしまう子、反対に自分の置かれた状況もわからず、泣くこともできず、意思表示自体をあきらめてしまい、無気力になる子・・・。特に後者のような子は、おとなしく手がかからないので放って置かれがちで、最後には人とのかかわりあいにさえ関心を示さなくなってしまうそうです。筆者は、バイリンガル教育の名の元に見過ごされがちな子どもたちの様々な深刻な心の問題、不適応の事例を卒園生の母親達の手記をふんだんに紹介しながら本書の中で提示しています。
「英語を習う」ことと「英語集団に入る」ことの違い
-幼児にとって集団とは何か?-
また、筆者は、毎年入園して来る子ども達と触れ合っている中で、二つの言葉で育っている園児が、集団の中で言動が幼いということに気づいたと書いています。これは、正に私も折に触れ感じていたことだったので、その説明を読んでなるほどと納得させられました。
幼児期は精神的発達において大変重要な時期であり、子どもは、「ことば」というコミュニケーションの道具を介して心、社会性、知能を発達させて行きます。ところが「ことば(第一言語/母語/日本語)」も、まだしっかりと確立していないうちに、まったく未知のことばを使う集団に入れてしまった場合どうなるか?「ことば」は理解できなければ表現できません。表現できなければ人とコミュニケーションがとれないので、ひいては社会性の発達に停滞をもたらしてしまうというのです。
また、本書の中ではSweetHeartのこのコーナーでも紹介している中島和子先生の研究結果が引用されていますが、筆者の現場での体験から得た理論の裏づけとなっており興味深いです。
「言語心理学者のカミンズは幼児初期に日本からカナダに移住した子どもたちが小学4年生頃から学力言語が急に低下して授業についていけなくなることを見出した。母語がしっかり獲得されないと第二言語の習得は難しいのである。・・・・ことばの土台の部分はしっかりしたものにしておくことが必要だ。ことばの土台は家族との社会的やり取りを通してつくられ、読み書き能力を獲得することによって思考の手段としての機能をもつようになるのである。
第二言語の発音面は第二言語を浴びる年齢が小さいほど、容易に習得される。英会話力は二年もすれば習得される。しかし、学習言語、思考の言語、読み書き能力や読解力などは習得は難しく、平均八年くらいかかるようだ。母語の読み書き能力をしっかり身に付けて、一対多のコミュニケーションスタイルに以降した段階(七~九歳児)でカナダに移住した子どもが、最も容易に、三年程度の短期間で現地の母語話者並の読書力や読み書き能力の偏差値に追いつく。しかし、三~六歳でカナダに移住した子供たちの習得が最も難しく、11年以上もかかるのである」(中島、1998)
つまり、「小さいうちに英語を習わせた方がいい、子どもはあっと言う間に言葉を覚えるから」と母語の日本語が確立していないうちに、お稽古事の感覚で"英語集団"に子どもを入れてしまうことの危険性を、筆者は30年の実体験を通して、そして中島先生は追跡調査と統計に基づいて互いに裏打ちしていると言えます。
外国で子育てしている方、日本でバイリンガル教育を目指している方には、是非とも、両著合わせ読んでいただきたいと思います。
余談になりますが、最近、台湾では英語教育熱が日本以上に加熱し、小学校以前の保育機関で英語のみで教育を行うことに政府が禁止令を出したそうです。台湾出身の知り合いに聞いたところ、英語のみの幼稚園で育った子が小学校に入学する年代になり、その子達の母語の遅れがひどかったことから、政府が危機感を覚えての禁止令だったそうです。
いまや韓国、台湾、中国など世界各国で英語学習熱は高まる一方で、日本でも小学校での英語教育が本格的に始まるきざしがあります。私個人の意見としては、小学校教育に英語が入ることは、いいことではないかと思うのですが、そのために台湾で起こったように小学校以前の幼児に対して英語学習熱が加熱することに懸念を感じています。この本は、英語教育と英語集団に子どもを入れることの違いや、その危険性を知っておくための非常に貴重な一冊だと思います。
<筆者、ニューヨークこどものくに園長先生早津邑子先生にSweetHeartがインタビュー>
SH:早津先生は、「母国語で育てることが、子どもの心身の健康な発達を支える」という信念を持たれ、幼いうちは、できるだけ日本語環境に置いてあげることを提唱されていますが、海外においては一部の地域を除いて、日本語環境を選択したくても選択の余地がないのが現状です。そのような場合には、どうしたらいいのでしょうか?
早津:日本語環境が近くにない場合、親も一人一人性格が違うので、何ができるか問われて即答はできかねますが日本人の少ない郊外のほうまで足をのばしたときに、お母さん方によくお話したことは次のようなことです。
「早くから英語集団に入れようと思わないこと」
「子どもに大人と同じ日本語で語りかけること」
「絵本をたくさん読んであげること」
「できたら子どもと一緒にペアレンティングクラスに参加すること」
「学齢期のお子さんをお持ちなら、ボランティアを積極的にすること」
現地校で苦労して必死で頑張ってきた子ども達は、親も子も大きく成長し、大人になって有能な人材として世界で活躍しています。赴任時、子どもがどんな年齢であっても、そのときにできる環境を受け入れることから始まると考えます。
SH:確かに異文化、異言語環境の中にあっても、母親という空母さえ傍にいてくれたら、安心して羽ばたいて行けることでしょうね。
<「バイリンガルとこどもの心」に関して、参考にしていただきたいその他の記事>
★あるドイツ人の母親のバイリンガル子育て記録:
http://www.sweetnet.com/bilingual.htm(→もろい子どもの心を大切にしてあげて)
最後に、早津先生は小さな子どもには、わかることばで笑顔いっぱいの集団生活を体験してほしい、いきいきと生活し、心おどるような体験ができる環境を作ってあげてほしいとおっしゃっていました。
筆者は、ニューヨークにある「こどものくに幼稚園」の創立者そして園長として30年以上、異文化で育つ子どもたちを毎日見つめてきた方です。本著は、その貴重な経験から、
●異文化で育つということが幼い子どもの心の成長にとって、どのような影響があるのか
●英語に早く触れることが、本当に英語の習得を速めるのか
●子どものことばと心のかかわり
などに関して子ども発達研究の専門家である御茶ノ水大学教授内田伸子氏を監修に迎えて、まとめあげた、非常に説得力のある著書であり、海外での子育てのみならず、日本での子どもの英語教育に対して重要な示唆を与えています。
異文化のストレス
「せっかくアメリカに来たのだからアメリカの学校に・・・子どもは、すぐにことばを覚えてしまうから大丈夫」または「子どもは絶対にバイリンガルにしたい」という親の思いから、突然コミュニケーションができない環境に放り込まれ、不適応を起こしてしまう多くの子どもたち。
コミュニケーションの取れないストレスを暴力という形で表してしまう子、反対に自分の置かれた状況もわからず、泣くこともできず、意思表示自体をあきらめてしまい、無気力になる子・・・。特に後者のような子は、おとなしく手がかからないので放って置かれがちで、最後には人とのかかわりあいにさえ関心を示さなくなってしまうそうです。筆者は、バイリンガル教育の名の元に見過ごされがちな子どもたちの様々な深刻な心の問題、不適応の事例を卒園生の母親達の手記をふんだんに紹介しながら本書の中で提示しています。
「英語を習う」ことと「英語集団に入る」ことの違い
-幼児にとって集団とは何か?-
また、筆者は、毎年入園して来る子ども達と触れ合っている中で、二つの言葉で育っている園児が、集団の中で言動が幼いということに気づいたと書いています。これは、正に私も折に触れ感じていたことだったので、その説明を読んでなるほどと納得させられました。
幼児期は精神的発達において大変重要な時期であり、子どもは、「ことば」というコミュニケーションの道具を介して心、社会性、知能を発達させて行きます。ところが「ことば(第一言語/母語/日本語)」も、まだしっかりと確立していないうちに、まったく未知のことばを使う集団に入れてしまった場合どうなるか?「ことば」は理解できなければ表現できません。表現できなければ人とコミュニケーションがとれないので、ひいては社会性の発達に停滞をもたらしてしまうというのです。
また、本書の中ではSweetHeartのこのコーナーでも紹介している中島和子先生の研究結果が引用されていますが、筆者の現場での体験から得た理論の裏づけとなっており興味深いです。
「言語心理学者のカミンズは幼児初期に日本からカナダに移住した子どもたちが小学4年生頃から学力言語が急に低下して授業についていけなくなることを見出した。母語がしっかり獲得されないと第二言語の習得は難しいのである。・・・・ことばの土台の部分はしっかりしたものにしておくことが必要だ。ことばの土台は家族との社会的やり取りを通してつくられ、読み書き能力を獲得することによって思考の手段としての機能をもつようになるのである。
第二言語の発音面は第二言語を浴びる年齢が小さいほど、容易に習得される。英会話力は二年もすれば習得される。しかし、学習言語、思考の言語、読み書き能力や読解力などは習得は難しく、平均八年くらいかかるようだ。母語の読み書き能力をしっかり身に付けて、一対多のコミュニケーションスタイルに以降した段階(七~九歳児)でカナダに移住した子どもが、最も容易に、三年程度の短期間で現地の母語話者並の読書力や読み書き能力の偏差値に追いつく。しかし、三~六歳でカナダに移住した子供たちの習得が最も難しく、11年以上もかかるのである」(中島、1998)
つまり、「小さいうちに英語を習わせた方がいい、子どもはあっと言う間に言葉を覚えるから」と母語の日本語が確立していないうちに、お稽古事の感覚で"英語集団"に子どもを入れてしまうことの危険性を、筆者は30年の実体験を通して、そして中島先生は追跡調査と統計に基づいて互いに裏打ちしていると言えます。
外国で子育てしている方、日本でバイリンガル教育を目指している方には、是非とも、両著合わせ読んでいただきたいと思います。
余談になりますが、最近、台湾では英語教育熱が日本以上に加熱し、小学校以前の保育機関で英語のみで教育を行うことに政府が禁止令を出したそうです。台湾出身の知り合いに聞いたところ、英語のみの幼稚園で育った子が小学校に入学する年代になり、その子達の母語の遅れがひどかったことから、政府が危機感を覚えての禁止令だったそうです。
いまや韓国、台湾、中国など世界各国で英語学習熱は高まる一方で、日本でも小学校での英語教育が本格的に始まるきざしがあります。私個人の意見としては、小学校教育に英語が入ることは、いいことではないかと思うのですが、そのために台湾で起こったように小学校以前の幼児に対して英語学習熱が加熱することに懸念を感じています。この本は、英語教育と英語集団に子どもを入れることの違いや、その危険性を知っておくための非常に貴重な一冊だと思います。
<筆者、ニューヨークこどものくに園長先生早津邑子先生にSweetHeartがインタビュー>
SH:早津先生は、「母国語で育てることが、子どもの心身の健康な発達を支える」という信念を持たれ、幼いうちは、できるだけ日本語環境に置いてあげることを提唱されていますが、海外においては一部の地域を除いて、日本語環境を選択したくても選択の余地がないのが現状です。そのような場合には、どうしたらいいのでしょうか?
早津:日本語環境が近くにない場合、親も一人一人性格が違うので、何ができるか問われて即答はできかねますが日本人の少ない郊外のほうまで足をのばしたときに、お母さん方によくお話したことは次のようなことです。
「早くから英語集団に入れようと思わないこと」
「子どもに大人と同じ日本語で語りかけること」
「絵本をたくさん読んであげること」
「できたら子どもと一緒にペアレンティングクラスに参加すること」
「学齢期のお子さんをお持ちなら、ボランティアを積極的にすること」
現地校で苦労して必死で頑張ってきた子ども達は、親も子も大きく成長し、大人になって有能な人材として世界で活躍しています。赴任時、子どもがどんな年齢であっても、そのときにできる環境を受け入れることから始まると考えます。
SH:確かに異文化、異言語環境の中にあっても、母親という空母さえ傍にいてくれたら、安心して羽ばたいて行けることでしょうね。
<「バイリンガルとこどもの心」に関して、参考にしていただきたいその他の記事>
★あるドイツ人の母親のバイリンガル子育て記録:
http://www.sweetnet.com/bilingual.htm(→もろい子どもの心を大切にしてあげて)
最後に、早津先生は小さな子どもには、わかることばで笑顔いっぱいの集団生活を体験してほしい、いきいきと生活し、心おどるような体験ができる環境を作ってあげてほしいとおっしゃっていました。
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