私の夫は日本の古武道に傾倒しています。彼の敬愛するH先生は日本に住んでいますが、なぜかお弟子さんは外国人の方がはるかに多く、全世界に何千にものお弟子さんがいます。
外国で武道をやっている人は武道の技だけでなく武道の精神に非常に惹かれており、先生と自分の上下関係をとても大切にしています。
アメリカ人というと、先輩だろうが教師だろうが、上下関係なんて関係なくふるまうという印象がありますが(もちろん上司にへつらう部下はアメリカにもいますが)、H先生のアメリカ人のお弟子さんたちを見ていると、アメリカ人でもここまで「へつらう」ことができるんだ!!!と新鮮な驚きがあります。たとえば、先生の前に出ると、皆ほとんど下僕のごとく自動的に腰を直角に曲げて頭(こうべ)をたれてしまいます。「はは~~殿さま~~~」という雰囲気で、見ていておかしくなります。
よく先生への手紙の翻訳を頼まれることがありますが、その手紙の内容たるや、まるでシェークスピアの古文か?と思うほど仰々しく、回りくどく、へりくだった美辞麗句がずらずらと並んでおり、私は頭をひねってしまうことがありますが、英語にも目上の人に対する丁寧な言い方は、いくらでもあるんだなーと感じます。(米語は、日本語のように尊敬や謙譲の言い方がなくて、誰に対しても同じ話し方、書き方と思っている人もいるかもしれませんが、きちんとした人に聞くと、必ず「違いはある!」と断言します。)
面白いのは、アメリカ人の手紙で、どんなに先生に対してへりくだった言い方をしていても、必ず家族紹介の文面になると、「私には美しい妻と、頭のいい素晴らしい息子があります。」というようにアメリカ的になります。日本語にして、日本人が読むと、なんだか恥ずかしくなる文面です。Henryおじさんの、これを英語でなんて言うの?には、たとえば日本で「これから息子がお世話になりますが、よろしくお願いします。」とか「息子が大変お世話になりました。」を英語では何て言うんでしょう?などという質問がありますが、これは、反対に英語にそのまましてしまうと違和感を与えてしまうことになるのだと思います。
いずれにしても、相手の文化を踏まえた上での適切な場での、適切な言い方を知っていることは、それが知らず知らずに与える印象を考えると、とても大切だと思います。